発酵コラム 9

パンと発酵

神秘的な食の営み

日常で食べるパンも立派な発酵食品です。
パンは酵母によるアルコール発酵で、ブドウ糖が酵母によって発酵し、アルコールと二酸化炭素を発生させます。
酵母を入れたパン生地をこねることで、グルテンが生成されて薄い膜ができ、発生した二酸化炭素(炭酸ガス)を包み込んで生地が膨らむのです。 オーブンで焼いている間にも発酵は進んでさらに膨らみ、生地が焼成されて気泡の入ったふっくらとしたパンに焼き上がります。
パンの始まりは今から約6000年前のメソポタミア、最初は粉と水をこねて焼いただけのものでしたが、エジプトに伝わり偶然余ったパン種に空気中の酵母菌がついて発酵。
翌日に焼いて食べたらいつもより美味しかったことから、色々な試行錯誤を経て現在に至ります。
日本にパンが入ってきたのは、1543年。
鉄砲と共にポルトガル人によってもたらされました。 「パン」はポルトガル語の「パオン」が元になっています。 当時の米食中心の日本ではあまり広まらず、明治時代に木村屋が日本酒づくりの酒種を使って作った「あんぱん」を発売し、大変な人気になり庶民へと広がっていきました。

一時、天然酵母パンがブームとなり、イースト(ドライイースト)は身体に悪いものという情報が流れましたが、 「酵母」はもともと英語の「yeast(イースト)」を訳したもの。
市販のイーストは、果物や穀物についた酵母からパンに適した発酵力の強いものを集めて安定的に発酵できるようにしたものなので、天然酵母と呼ばれるものとイーストに大きな違いはありません。

天然酵母も市販されていて、イーストより発酵力が弱く酵母菌以外の成分も多いため発酵に時間がかかります。
しかし、風味豊かなパンが焼けるのでイーストのパンとはまた違った美味しさを楽しむことができます。
レーズンなどから自家製の酵母を起こすことも可能です。
1週間ほどかけて酵母をつくり、さらに3日かけて小麦粉と合わせた種を起こします。
それからようやくパンをこね、一次発酵、二次発酵、成形、ベンチタイム…と丸一日かけてパンが焼き上がります。 驚くほどの時間がかかりますが、ぷくぷくと膨らむ酵母菌を育てるのもまた、発酵を実感できる豊かな時間になるかもしれません。

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